賃金とは

賃金と労働基準法

 賃金は、数ある労働条件の中でも最も基本的なものです。労働条件には様々なものがありますが、労働者は対価としての賃金を得るために労務を提供し、その賃金を得て生計を支えているのですから、このことに異論は無いと思います。
 労働基準法では労働者保護の観点から、賃金の支払(労働基準法第24条)だけでなく、解雇予告手当(第20条)、休業手当(第26条)、年次有給休暇期間の賃金(第39条第6項)、療養補償(第75条)、休業補償(第76条)、障害補償(第77条)、遺族補償(第79条)、葬祭料(第80条)、打切補償(第81条)、分割補償(第82条)、制裁規定の制限(第91条)等、労働者を経済面で保護する規定を数多く置いています。
 これら、解雇予告手当(第20条)、休業手当(第26条)、年次有給休暇期間の賃金(第39条第6項)、療養補償(第75条)、休業補償(第76条)、障害補償(第77条)、遺族補償(第79条)、葬祭料(第80条)、打切補償(第81条)、分割補償(第82条)、制裁規定の制限(第91条)における金額算定の基礎として用いられるのが平均賃金であり、その計算方法は労働基準法第12条に定められています(平均賃金については本稿ではここまでの説明といたします。)。

 

労働基準法上の賃金とは

 労働基準法では具体的にどのようなものが賃金とされているのでしょうか。
 労働基準法第11条では、「この法律で賃金とは、賃金、給料、手当、賞与その他名称の如何を問わず、労働の対償として使用者が労働者に支払うすべてのものをいう。」と定め、労働の対償として使用者が労働者に支払うすべてのものは名称の如何を問わず賃金であるとして定義しています。


【参考】労働基準法(抜粋)

(定義)
第十一条 この法律で賃金とは、賃金、給料、手当、賞与その他名称の如何を問わず、労働の対償として使用者が労働者に支払うすべてのものをいう。


 しかしながら、この、「労働の対償」に該当するものであるかどうかの判断は、現実には相当に困難を伴うことがあり、これまでに多くの行政通達や判例があります。以下にそれらをまとめた表を記載しますが、個々の事案によって、手当の名称や概要がこれらの先例にある手当等と類似していても、詳細をみたときには性質を異にしている可能性もあります。判断を誤ると、賃金不払いの原因となる問題でもありますので、その点に留意のうえ参考としてご覧下さい。

 

【表】労働基準法で賃金となるものとならないもの

賃金とされるもの 賃金とされないもの
事業主の負担する労働者の所得税等(健康保険料、厚生年金保険料、雇用保険料等を含む。)は賃金とみる(63・3・14基発150)。 結婚祝金、死亡弔慰金、災害見舞金等の恩恵的給付は原則として賃金とみなさぬ。但し、結婚手当等であって労働協約、就業規則、労働契約等によって予め支給条件の明確なものは賃金である(昭22・9・13発基17)。
スト妥結一時金は臨時の賃金である(昭28・3・20基発137)。 福利厚生施設と見られるもの(昭22・9・13発基17)。
(福利厚生施設の範囲はなるべくこれを広く解釈すること(昭22・12・9基発452)。)
航空機乗務員が、通常の業務として、航空機に一定区間乗務する場合に支給される乗務日当は、その目的は主として航空機に乗務することによって生ずる疲労の防止及び回復を図ることにあり、一種の特殊作業手当とみるべきものであり、賃金と認められる(昭36・5・16 35基収7006)。 臨時に支払われる物その他の利益。祝祭日、会社の創立記念日又は労働者個人の吉凶禍福に対して支給されるもの(昭22・12・9基発452)。
「退職金は、就業規則においてその支給条件が予め明確に規定され、会社が当然にその支払義務を負うものというべきであるから労基法11条の「労働の対償」としての賃金に該当し、・・・」(最高裁第二小法廷昭48・1・19) 労働者より代金を徴収するもの
(昭22・12・9基発452)。
(但し、その徴収金額が実際費用の三分の一以下のときは、徴収額と実際費用の三分の一との差額を賃金と見る。)
結婚手当等であって労働協約、就業規則、労働契約等によって予め支給条件の明確なものは賃金である(昭22・9・13発基17)。 チップは賃金ではない(昭23・2・3基発164)。
民間企業の退職金も、権利として確定しているものについては、本条に言う労働の対償としての賃金に該当し、その支払については、性質の許すかぎり、直接払いの原則が適用される(最高裁第三小法廷昭43・5・28)。
※国家公務員等退職手当法についても、労働基準法上の賃金であるとする判例あり。
制服、作業衣等業務上必要の被服の貸与は賃金ではない(昭23・2・20基発297)。
住宅資金の積立を勧奨し助成することを目的とする積立金制度の一環として、一定の勤続年数及び一定年齢以上の者に支給されている住宅助成金は賃金の一種である(東京地裁昭48・9・26)。 法定額を超えて支給される休業補償費は賃金に含まれぬ(昭25・12・27基収3432)。
  役職員交際費は賃金ではない(昭26・12・27基収6126)。
  作業用品代は損料又は実費弁償と認められ賃金ではない(昭27・5・10基収2162)。
  福利厚生のために使用者が負担する生命保険料等補助金は賃金でない(昭63・3・14基発150)
  社宅の無償供与は入居者に対する賃金の一部とは認められない(熊本地裁玉名支部昭39・5・19)。
  生命保険を利用した退職金準備金としての積立金は、生命保険の保険料であって、賃金でも、会社の預り金でもない(東京地裁平9・3・24)。

 

2020年03月30日